運命の逆転

ジャーナリスト、コメンテーター、専門家が次々に口にする"FA杯の魔法"。その言葉にピッタリなのが、今週末に控える5回戦だ。

 

この世界最古のフットボールカップ戦は、W杯、ユーロ、チャンピオンズリーグとも違い、シードもなければ組み分けもなく、強豪同士が最後まで当たらないこともない。

 

次の対戦相手は、ただ単純にくじ運次第。今シーズンのベスト16に残ったプレミアリーグ8チームは、いずれも下部リーグと対戦。そのうち6チームがアウェイでの戦いを強いられることから、ひとつやふたつ、番狂わせが起こるのではないかというのが大方の予想となっている。

 

そんな今回のチェルシーの相手は、アーセナル、トッテナム、マンチェスター・シティでもなければ、サットン・ユナイテッドでもない。リヴァプールを下して勝ち抜けを果たした、ウォルヴァーハンプトン・ワンダラーズだ。

 

しかし、いくらアンフィールドで2-1の勝利を飾ったウルヴズが相手とはいえ、チェルシー優位の予想は覆らないだろう。プレミアリーグ首位を長らく維持するブルーズに対し、ウルヴズはチャンピオンシップ18位に沈み、単純な勝ち点差では37の差が開いている。

 

かつて、この両チームが頻繁に顔合わせしていた時代もある。1924/25から1978/79シーズンまでの48年間、42年間は同じディヴィジョンに所属していたのだ。

 

当時のウルヴズは格上の存在。1950年代には3度のリーグ優勝を果たし、1953年9月にはモリニューで8-1と、チェルシーの大敗記録を残した相手だ。

 

しかしその翌シーズン、1955年4月にはチェルシーがスタンフォードブリッジで1-0で勝利し、勝ち点4の差をつけてクラブ史上初となるリーグ優勝を飾ったのだった。

 

そんな過去の栄光もどこ吹く風。1983年1月、2部時代の顔合わせではウルヴズが2-1で勝利し昇格を手にした一方で、チェルシーはかろうじて3部降格を免れるほどにまで落ち込んでしまった。

結局、リーグでの顔合わせはこれが20世紀最後となり、両チームの未来も大きく変わっていった。そんな当時、いったどれだけの人間が、あの降格の淵に立たされたチェルシーがタイトルを総なめするビッグクラブにまで成長し、右肩上がりだったウルヴズが悲惨な運命を辿ると予想できただろうか。

 

チェルシーはその翌年、2部優勝で昇格。一方のウルヴズは21ポイントの差を開けられ最下位で降格。そのまま降格に降格が続き、1986年には4部にまで落ち込んだ上、財政難にも見舞われてしまった。

 

(この財政難の原因のひとつが、1970年代後半に敢行されたモリニューの改築費用。これが破産寸前にまでクラブを追い込むこととなったが、同時期にはイーストスタンドの建設でチェルシーも同様の課題を抱えていた)

 

しかし幸いにもウルヴズはこの難局を切り抜け、1990年には2部復帰。根っからのサポーターだった実業家のサー・ジャック・ヘウウォードがクラブを買収し、私財をつぎ込んでそこからの17年間でクラブを大きく立て直してみせたのだった。スタジアムやクラブ施設も改善された一方で、チームそのものといえば昇格プレーオフで3度の敗退、プレミアリーグ昇格も2003年のみと芳しくはなかった。

 

そこからの10年でさらに3度の昇格を味わうも、その度に最下位争いを演じては降格。2012年にも降格となった一方で、チェルシーはチャンピオンズリーグを制している。

 

クラブ140年の歴史を背負うウルヴズだが、かつての栄光を取り戻すにはまだまだ時間がかかりそうだ。しかし、アンフィールドでのリヴァプール撃破に続き、モリニューでプレミアリーグ首位を下したとなれば、往年のファンもとりあえずは溜飲が下がることだろう。

 

ウルヴズ相手の勝利は、チェルシーにとってかつてほどの意味を持たなくなってしまったのかもしれない。しかし、FA杯準々決勝の座が懸かっているとなれば、話は別だ。この34年間を振り返ると、ウルヴズのファンには同情すべき点もある。

 

しかし、同情こそすれ、ピッチの上で行われる戦いはチャリティではない。しっかり勝って、晴れ晴れした気持ちで週明けを迎えたいところだ。